何だか物騒なタイトルになってしまった。
ただ、私がそんなカレーに出逢ってしまったのは紛れもない事実なのである。
――旨いものには味の好みを変えてしまう魔力がある。
小倉のカレー店「ガネーシャ」のカシミールカレーがそれを証明してくれた。

ガネーシャのカシミールカレーというのは、漆黒に染まった黒いサラサラのルーに具は大きくカットされた鶏肉とジャガイモのみ、という見た目にも
なかなかインパクトのあるカレーなのだが、何といっても特徴的なのが、
一口頬張ると感じるその強烈な辛味。
……と同時に広がる深い味わいとコク、旨味。
そう、カシミールカレーは強烈に辛くて強烈に旨い。
とにかく「辛旨」なカレーなのだ。
どれだけ辛旨なのかというと、当時辛いものが苦手だった私を逆に激辛好きに変えてしまったほどである。
ガネーシャのカシミールカレーに出会う前の私はというと、カレーを食べる時は本当は甘口がいいけど、甘く見られたくないという文字通りだが意味のわからないプライドで中辛を頼んでみたりするような人間だった。
父親がうどん屋に行って七味をかけまくる様子を見ると、あぁ、職人がせっかく丁寧に引いた出汁が台無しだ…と悲しい気持ちになっていたのもよく覚えている。
そんな私が、同僚に誘われてガネーシャにやってきたのが約7年ほど前。
今でこそ移転してクロスロード魚町という小奇麗なビルの一角にある同店だが、当時は魚町銀天街の地下、周りの店もほとんど閉まっていてまるで世紀末のような雰囲気の中で営業していた。
照明控えめの店内にはインドの絵や置物、世紀末を舞台にした名作『北斗の拳』をはじめとしたくたびれたコミックの数々…
一体どんなカレーを食べさせるんだとドキドキしたことを覚えている。
メニューを見ると、チキンカレーやインドカレー、キーマカレーと豊富なラインナップ。
それぞれの辛さの目安が星の数で表されている。
どれにしようか悩んでいると、同僚が言った。
「ここはカシミールが有名やけど、辛くて食べきらんと思うよ」
何?
その一言が私の例の意味のわからないプライドに火をつけたのだった。
私は同僚に続いて「同じので」とやや食い気味に注文した。
辛さの”星”が圧倒的に抜きん出ているカシミールカレーを。
カレーを待つ間、くたびれた北斗の拳を読みながら私は落ち着かない気持ちだった。
なぜ苦手な、それも辛さのレベルが最大のものを勢いで頼んでしまったのか。
これではラオウのような最期を迎えられそうにない。
そうこうしているうちにカシミールが到着。
いただきます、とドキドキしながら漆黒のルーにライスを浸し口に頬張る。
………辛い!!!
今まで食べたことのない強烈な辛味が口の中を駆け巡った。
しかし、注文したことを悔いる間もなく何とも深い味わいが訪れた。
辛い!!!だけど、とんでもなく旨い!!!
ヒーヒー言いながらも、気づけばルーの入った深皿は空になっていた。
こんなに辛くてこんなに旨い食べ物があったのか。
私はカシミールカレーの虜になった。
ガネーシャに行く度に、他のカレーも食べてみようと思っているのだが
いざ注文となると口が勝手に「カシミールをライスで」と言っている。
そして毎度毎度感じるのはあの初めて食べたときの衝撃。
「辛くて旨い」
この出会いは、私の食の好みまで大きく変えてしまった。
辛いものが苦手だった私が今では職場でも有名な辛いもの好きである。
坦々麺や四川火鍋は大好物だし、辛麺の桝元では15倍以上がデフォルト。
桝元もそうだが大体の店では辛さを増すほど追加料金がかかることが多い。
ガネーシャのせいで出費まで増えてしまった。
自分の醜いケチな一面を出してしまったが、とにもかくにも、
北九州は小倉・ガネーシャのカシミールカレーは
味覚を変えてしまうほど旨いカレーであることは間違いない。
あなたもぜひその「辛旨」の境地を味わってみてはいかがだろうか。
(作・北パパさん)